カリナリーアートを極める①

人気国際料理コンテストのタイ版で、有望な参加者が審査員の心を打ち、マスターシェフのタイトルを勝ち取る

カリナリーアート
料理芸術。食材選び、メニュープレゼン、仕込み、盛り付け、提供、食卓や空間づくりを統合したもので、日本でいうところの割烹料理に近いです。

テレビで放映される、唐辛子を切る様子、魚を焼く模様、ステーキを煮込む光景…。タイのテレビでは料理番組の数が増えてきており、その美味しそうな光景で人々を魅了しています。料理芸術はタイでは既に有名ですが、今後更なる進化を遂げるのではないかと思われます。
プロのシェフたちが人気番組「タイ版 料理の鉄人(Iron Chef Thailand)」や「タイ版 トップ・シェフ(Top Chef Thailand)」で熱い戦いを繰り広げる中、アマチュア料理人は「マスターシェフ(MasterChef)」のタイ版で、カリナリーの腕を試し始めています。
6月4日より7チャンネルで放送開始したタイ版マスターシェフの初シーズンでは、全2,500人の応募者の中に消防士、占い師、マジシャン、オペラ歌手、さらにはレスラーまで実に様々な職業の料理人がいました。オーディションラウンドでは、希望に満ちた120人の参加者が、3人の審査員の目の前で各々の看板メニューを披露します。2人の審査員の承認を得た参加者が、ファイナル出場を許される、栄誉あるホワイトエプロンを手にすることができるのです。
「料理は私の幸せそのものです。マスターシェフへの参加は私にとって人生の転機になるかもしれない、とても重要なイベントなのです。」楽しげなマンゴーデザートのトリオを用意したパウィーナッチ・ヨドプレチャビジットさん(24)は言いました。
彼女の家族は、彼女が料理の道に進むことに賛成していませんでした。厳しいチャレンジで有名な次のラウンドへの切符を勝ち取るため、優しく繊細な性格の彼女にとっては苦痛でもある、サーモンをさばく試練を乗り越えなければなりませんでした。
パウィーナッチさんは最終的にマスターシェフの選考を勝ち抜き、オーディション合格の通知を受けて喜びの涙を流しました。

グラフィックデザイナーのプーニャネート・タナップラパットさんはホタテガイとフランス産トリュフの一品で審査を勝ち抜き、喜びのあまりホワイトエプロンを振りながら跳び跳ねました。「タイ版マスターシェフが家庭料理の鉄人をお探しなら、私が適任です」と彼女は断言しました。
マジシャンのアピポン・デツファさんは、バターレモンソースで評価を落としたものの、ウェルダンのマトウダイの料理と、はじけた風船から木製スプーンが現れる手品で審査員を感動させました。
コーンケーン出身のガレージオーナーであるソンポン・ジラジットミーチャイさんは、イーサーン地方の郷土料理であるモックヒューアグをオタマジャクシを使って仕上げ、審査員に提供しました。彼女のプレゼンテーションは良いとは言えなかったものの、料理の風味の豊かさが評価され、象徴的なエプロンを獲得することができました。
タイ版マスターシェフと料理の鉄人のプロデューサーを務める、ヘリコニア Hグループ最高責任者キチコーン・ペンロテ氏はこう言いました。「料理が全てではないんです。コンテスト参加者はそれぞれ胸を打つ人生のストーリーを、番組に持って来ます。私たち製作者側では、涙のドラマを作り込む必要なんてないのです。家庭料理人はみなさん同じように情熱を持ち、タイの最初のマスターシェフになりたいと本気で思っているのです。」
まだ数少ない料理コンテスト番組は、歌唱コンテストやクイズ番組、連続ドラマばかりに注目しているタイのプロデューサーには注目されないことが多いです。キチコーン氏は、料理コンテストは視聴者に新たな人生の選択肢を提案できる、素晴らしい番組であると信じています。
彼は5年前に、キッチン・スタジアムでプロのシェフが腕を競う、日本で生まれた料理番組「料理の鉄人」をタイのテレビ向けにリメイクしました。各回、決められた食材を用いたタイムバトルの中で、ゲストのシェフが番組専任の料理の鉄人に挑みます。

タイ版料理の鉄人は放送200回を超え、料理番組ブームの火付け役となったと思われます。製作チームがカリナリーアートに興味を持つ視聴者にとって楽しく、勉強になる番組をつくる方法を身に付けてきたので、キチコーン氏はこのまま番組製作を続けるつもりです。
「タイ版料理の鉄人は、プロのシェフになることに対する興味を掻き立てることができます。」キチコーン氏は言いました。「昔は、親は子供に医者やエンジニア、他の尊敬される職業に就いてほしいと思うものでした。今では子供が他のキャリアパスを歩み、親がそれを支持することに寛容になっています。より多くのタイの料理人を育てることで、タイのカリナリーアートと料理産業の発展に貢献できるでしょう。」
この思いは、カリナリーの腕を証明したいという大勢の若いタイ版マスターシェフ応募者に、また時には彼らの親にも影響しています。